7/28〜8/1のコラムは…
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◇7月ゲストコラム◇
AIの基礎と最前線
― AIと人間の関係、
いま再考すべきこと ―
小峠陸登@AIエンジニア
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今週のゲストコラムは、
AI技術の最前線で開発に携わるエンジニア小峠さんのご登場👏
大学院で人工知能(AI)やデータサイエンスを専門に研究し、
現在は、自然な感情表現や会話を行うAIの開発を手がけている小峠さん✨
チャットアプリやコールセンター、さらにはゲームへの導入など、多彩な現場で活躍するAIの「中の人」として、開発の裏側や未来の展望を語っていただきました。
今回は、
🤖生成AIや画像・音声AIの
進化はどこまで来ているのか?
🤖AIの「得意」と「限界」
人にしかできない価値とは?
🤖あなたの事業にAIをどう付き合わせるか?
など、これからの働き方を考える上で避けて通れない「AIとの付き合い方」を、自分ごととして見直すヒントが詰まっています💎
「使う側」にとってこそ重要な、『AIを使いこなす目』を持ちたい方に。
情報に踊らされず、付き合い方をデザインするための知恵が詰まったコラムとなっています!
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#1 AI はいま、どこまで進んでいるのか?
〜生成 AI・画像・音声・医療など、最新の応用事例を概観〜
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「AI」という言葉を、ニュースや日常会話で耳にする機会が急激に増えました。少し前までは SF 映画の中の存在だった AI は、今や私たちのスマートフォンや家庭の電化製品にも搭載され、非常に身近な技術となりつつあります。では、現在の AI は一体どこまで進化しているのでしょうか。今回は、その最前線で起きている驚くべき応用事例をいくつかご紹介します。
最も注目されているのが「生成 AI」です。代表格である「ChatGPT」は、まるで人間と対話するように自然な文章を作成できます。メールの文面を考えたり、複雑なテーマを分かりやすく要約させたり、新しい企画のアイデアを出してもらったりと、その活用範囲はビジネスから個人の創作活動まで無限に広がっています。
「画像生成 AI」も目覚ましい進化を遂げました。「夕焼けの海辺を歩く猫」といった短い言葉を入力するだけで、まるで写真家が撮影したかのようなリアルな画像や、プロのイラストレーターが描いたような美しい絵を瞬時に作り出すことができます。これにより、デザインや広告、エンターテイメントの世界に大きな変革が起きています。
さらに、私たちの命と健康を守る医療分野でも AI の活躍は目覚ましく、CT や MRI といった医療画像を AI が解析し、医師でも見逃してしまうような微細ながんの兆候を発見する診断支援システムが実用化されています。これにより、病気の早期発見率の向上が期待されています。
このように、AI は文章や画像の生成から、音声の認識、そして専門的な診断支援まで、かつては人間だけの領域だと思われていた分野で、その能力を急速に拡大しています。
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#2 AIはどうやって“考えている”のか?
-ChatGPTなどに使われる技術の仕組みをAIエンジニアが解説
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「AIはまるで魔法のようだ」と感じる方も多いかもしれません。
しかし、その裏側には、エンジニアたちが築き上げてきた緻密な技術と、膨大なデータに基づいた仕組みが存在します。
今回は、ChatGPTのようなAIがどのようにして人間のような文章を生み出すのか、その「頭の中」を少しだけご紹介します。
AIの思考の根幹にあるのは「大量学習」です。AIは、インターネット上に存在する膨大な量のテキストデータ、例えばニュース記事、ブログ、書籍、会話の記録などを「教科書」として読み込みます。
これは、人間が生まれてからたくさんの本を読み、人と会話することで言葉を覚えていく過程と似ています。
特にChatGPTのような生成AIで重要な役割を果たしているのが、「文脈を読む力」です。
文章の中の単語と単語の関連性の強さを計算し、文全体の文脈を理解することで、より自然で適切な言葉を選び出すことができるのです。
そして最後に、AIの答えをより人間に近づけるための「仕上げ」の工程があります。
AIが生成した答えに対して、「この回答は良い」「この表現は不自然だ」といったフィードバックを人間が与え、それを元にAIを再教育します。
これを「強化学習」と呼びます。
まるで先生に褒められたり、間違いを指摘されたりしながら成長する生徒のように、AIも人間からのフィードバックを通じて、より洗練された対話能力を身につけていくのです。
AIは「考えている」というより、学習した膨大なデータから「次にくる確率が最も高い言葉」を予測し続けている、というのが正確な表現です。
しかし、その結果として生み出される文章は、もはや人間が書いたものと見分けがつかないレベルに達しているのです。
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#3 「AIの限界とは何か?」得意なこと・苦手なことから見える“人との違い”
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これまでのコラムで、AIの驚くべき能力をご紹介しました。
しかし、AIは決して万能の神ではありません。人間と同じように、AIにも得意なことと苦手なことがあります。その「限界」を知ることは、AIと人間が上手に協力していく上で非常に重要です。
まず、AIの得意なことを再確認しましょう。
それは、膨大な量のデータを瞬時に処理し、その中から特定のパターンを見つけ出すことです。
例えば、過去数十年分の株価データから傾向を分析したり、何百万枚もの製品画像から不良品を瞬時に見つけ出したりといった作業は、人間の能力を遥かに凌駕します。ルールが明確に決まっているタスクを、疲れ知らずで高速かつ正確に実行する、最高の「専門家」と言えるでしょう。
一方で、AIには根本的な苦手分野があります。
その一つが、「身体性」です。
「熱い」「痛い」「美味しい」といった感覚は、身体を通して経験することで初めて理解できるものです。
AIは「リンゴは赤い」と学習できますが、「リンゴの歯触り」や「甘酸っぱい香り」を実感することはできません。この実世界での経験の欠如は、人間との決定的な違いです。
そして、「0から1を生み出す独創性」 もAIの課題です。
AIは既存のデータを組み合わせて新しいものを作るのは得意ですが、まだ誰も考えたことのない全く新しい概念や、人の心を揺さぶるような真の芸術的創造は、今のところ人間の領域です。
AIは、特定のタスクにおいては人間をはるかに超える能力を持つ、非常に強力な「道具」です。
しかし、それは私たちの思考や感情、創造性を代替するものではありません。
AIの限界を知り、人間の持つ独自の価値を再認識することこそが、AI時代を賢く生き抜く鍵となるでしょう。
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#4 社会に広がるAI活用の現場〜どんなことに使われているか
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AIが特別なものではなく、私たちの社会を支えるインフラの一部になりつつある現在、具体的にどのような現場で、どのように役立っているのでしょうか。
今回は、社会の様々なシーンに広がるAI活用の現場を具体的に見ていきましょう。
最も身近なのはビジネスの現場です。企業のウェブサイトで質問を入力すると、24時間365日、即座に回答してくれる「チャットボット」は、AIによる顧客対応の代表例です。
また、会議の音声を自動でテキスト化し、議事録を作成してくれるサービスは、多くのビジネスパーソンの業務を効率化しています。
マーケティングの世界では、AIが過去の販売データや顧客の行動履歴を分析し、将来の需要を予測したり、一人ひとりに最適な広告を配信したりするのに活用されています。
ものづくりの現場でもAIは不可欠な存在です。工場の生産ラインでは、AIを搭載したカメラが製品の画像を高速でチェックし、人間の目では見逃してしまうような微細な傷や汚れを瞬時に検知します。これにより、品質管理の精度が飛躍的に向上しました。
そして、私たちの命と健康を支える医療・介護の現場でもAIは活躍しています。
第1回で触れた画像診断支援に加え、患者一人ひとりの遺伝子情報や生活習慣をAIが分析し、最も効果的な治療法や薬を提案する「個別化医療」の研究が進んでいます。
介護施設では、ベッドに設置されたセンサーが利用者の心拍数や呼吸、睡眠状態を監視し、異常があればAIが即座に職員に知らせる見守りシステムが導入され、職員の負担軽減と利用者の安全確保に貢献しています。
このように、AIは今や社会の隅々にまで浸透し、人手不足の解消、生産性の向上、そして新たな価値の創出に大きく貢献しているのです。
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#5 これからの社会とAIの関係〜未来に向けた論点を整理
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全5回にわたるコラムも、今回が最終回です。
これまでAIの驚くべき進化、その仕組み、そして限界と社会での活用事例を見てきました。
最後に、こうしたAIの進化を踏まえ、これからの社会で私たちはAIとどう向き合っていくべきか、未来に向けた重要な論点を整理します。
第一の論点は「雇用の変化」です。AIによって、これまで人間が行ってきた定型的な事務作業やデータ入力、工場の単純作業などが自動化され、一部の仕事が減少することは避けられないでしょう。
一方で、AIを管理・運用する仕事や、AIを活用して新たなサービスを生み出す仕事など、新しい雇用も生まれてきます。私たち人間には、AIにはない創造性、複雑な問題解決能力、そして他者と共感し協力するコミュニケーション能力といったスキルが、これまで以上に求められるようになります。
第二に、「倫理と公平性」の問題です。AIは過去のデータから学習するため、そのデータに社会的な偏見や差別が含まれていると、AIもその偏見を増長してしまう危険性があります。
例えば、採用選考AIが過去のデータから特定の性別や属性を不当に低く評価してしまう、といった問題です。
最後に、「偽情報」のリスクです。AIは、本物と見分けがつかない精巧な偽の動画や音声(ディープフェイク)を生成するのにも使われ、世論操作や詐欺に悪用される危険性をはらんでいます。こうしたAIの悪用を防ぐための技術開発と注意喚起が必要です。
AIは、私たちの未来をかつてないほど豊かにする可能性を秘めた、強力な技術です。
しかし、その未来が明るいものになるかどうかは、AIを開発し、利用する私たち人間次第です。